第107章 抱擁、息が詰まるほどの近さに狼狽える

香澄はその言葉を聞くなり、外にいるママをちらりと見て、ほとんど迷いなくこくりとうなずいた。

「うん! やる!」

小泉大輔は柔らかな声で言う。

「今日は新しい描き方を教える。紙、替えようか……」

香澄はまた元気よくうなずいた。

ほどなくして、新しい絵がすらすらと紙の上に立ち上がっていく。

今度の香澄は、抽象ではなく、現実を写し取ったような表現だった。

小泉大輔が手を添え、一本一本の線を、極限まで丁寧に導いていった。

南雲玲奈は、自分がすでに店内の二人にとって「風景」になっていることなど、知る由もない。

彼女は鳩に餌をやりながら、ときどき喫茶店の中を覗いた。

中では二人が真剣...

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